わが人生の時の時 (新潮文庫)

わが人生の時の時 (新潮文庫)

パブリッシャー
新潮社
価格: ¥580

わが人生の時の時 (新潮文庫)のレビュー

作品自体よりも
巻末で本について語っている某評論家が、「世界文学の水準で読み得る作品」と位置づけ、並み居る現代純文学・エンターテイメント文学の中から他作家の2作品と同点ながら最高点を与えた作品。
なのだが、私にはそこまでの魅力は感じられなかった。
特に各エピソードの締めくくり方が凡庸。
たしかに石原氏の立場・地位などでないと体験できないエピソードはそれなりに貴重だろうが、純文学系作品の魅力はそればかりではない。
ありふれた、誰でも経験できることだけれども、視点を変えることでこんな魅力もあるんだよと提示できることこそ醍醐味ではなかろうか。
ただ、作品全般がなかなか醸し出せそうにない重厚感に富み、今時の語彙貧弱な若者にも日本語はこんなに色々な表現が出来るんだよと模範に出来るような言葉の数々など唸るべき部分もある。

作品云々より興味深いのが、当作品がエッセイということもあり、石原氏の人間性を顕著に感じることが出来ること。
石原都政に反対な人が読むと「やっぱりな」と感じる行動・考え方。
意外に非科学的であったり超自然的な現象を信じていたり、意地っ張りで頑固なところで損もしているのだろうなと感じる部分があったりして、そういったところを拾っていくほうが私としては楽しかった。
四つ星の評価だけれど、正確には3つ星半。
うれしい出会い。
正直言って石原氏の熱心な読者でなかった僕だが、この本を読んだときにはかなりの衝撃を受けた。
面白いというか、すごいというか、とりあえず言葉を失った。今までに味わったことのない読後感だった。
おそらくどの年代の人が読んでも、それぞれに感じることがあるだろうと思う。まだ青臭い若輩者の僕には、6番目に収められている『レギュラー』が最も心に響いた。自分にはまだまだ攻めがたりないなと強く感じた。
10年後、20年後、月日を経てまた読んでみたいと思う。
例えば戦争という緊張の時
 40掌編の中から戦争に関連する3編を取り上げてみよう。
「人生の時を味わいすぎた男」は、真珠湾攻撃に参加した操縦士が、ゲイバーになっている不思議さが語られている。あの時あの真珠湾で死ななかったし、その後数々の激戦地に回されても死ななかった、貴重な経験の持ち主の男との出会いを書いた好編。
「若い夫婦」は、少年時代に出征前の男との触れ合いが描かれて、心打たれる佳品である。遊び仲間の貸し家で若い夫婦らしい二人がいて、その男に話しかける。「おじさんたちは新婚なんだろう」「いつまた戦争に出かけていくんですか」と問いかけると「またもうじきにな」そして「大きくなれよ、元気でな、大きくなれよ」と繰り返し言ってくれた。…私は男の腕の内で、彼を抱きしめ返したいのをこらえてただ懸命にうなずいていた…その後、姿が見えなくなり、半年ほどして「英霊」とだけ書いてある遺骨が帰って来たという。何十年ぶりかでその家をのぞいてみると、別の若い夫婦と子供たちの家族が幸せそうに住んでいるのを見て、茫然と、そして陶然と立ち尽くしていた、と余情深く一編を結んでいる。
「戦争にいきそこなった子供たち」は、終戦時中学1年生で、艦載機による機銃掃射を受けた体験を述べ、「あれは私にとって有無いわさずに歴然として在る、生命を賭けて凌ぎ合う敵と味方なる関わりを悟らされた初めての瞬間だった。そして自分が今抜き差しならぬ形で国家なるものに属しているのだということを、あの時知っていた」と言う石原慎太郎には、すでに作家の鋭敏さがあった(雅)
凄いね、こりゃ。
「濃密な人生体験」と、「それを表現する筆力」が
出会った、希有な例です。

平凡な人生をおくる我々には、一生のうち一度体験
すれば上出来、というような劇的な瞬間が、40編も
ぎっしりと詰まっています。
筆者が、圧倒的な体験を目の当たりにした時、それ
に対して謙虚に、素直に、丁寧に描写しようという
作家としての良心を感じます。

さほどの読解力を駆使しなくても、誰の脳裏にも、
筆者の目撃した風景が、如実に迫ってくるでしょう。
とくに、筆者がヨットマンであった事から、海の持
つ神秘性、美しさ、恐ろしさが強く伝わってきます。

政治臭がないのも、幅広い人に受け入れられる要因
となるでしょう。掛け値なしに、筆者の代表作です。

彼の最高傑作・・・なんですか?
他の作品を数多く読んでいるわけではないのでわかりませんが。小説ともエッセイともいえる、さまざまなエピソードでつづられた不思議な作品。大変面白い人生を生きてきた祖父の思い出話(誇張もあって、子供心に「本当???」なんて思いながらも、ドキドキ引き込まれてしまう)を、せがんで聴くような感覚で、時々読み返したくなります。